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福島家庭裁判所 昭和50年(家)342号 審判

申立人 三浦ツタエ(仮名)

相手方 三浦勝(仮名)

主文

本件申立を却下する。

理由

申立人は、相手方が婚姻費用分担金として毎月金七万円宛支払うことを求め、その理由の要旨としてのべるところは、申立人は相手方との生計を助けるために働いて、毎月三万五〇〇円位の収入を得、申立人名義の預、貯金及び現金等を加えて土地、建物を購入したが、相手方は申立人に生活費として充分の費用を渡さず、昭和四八年二月から同四九年五月迄二万円、同年六月から一一月まで毎月三、〇〇〇円と常識では考えられない金額を渡すのみであるから、一食三〇〇円、二人三食一、八〇〇円で月間五万四、〇〇〇円、水道、がス、電気、電話、テレビ、新聞、年金費等の月々の支払分一万五、〇〇〇円、娘の大学通学費用への仕送り月五万円、半年毎のボーナスは半分宛を婚姻費用として分担してもらいたく申立に及んだ、というにある。よつて考えるに、調査の結果によると次の事実が認められる。

1  申立人と相手方は昭和一五年七月一四日婚姻した夫婦で、その間に昭和二八年五月九日生の長女かほりがおり、現在東京の大学へ遊学中である。

2  申立人は○○女子短期大学図書館に昭和四七年四月から、毎過火木土曜にパートタイムで勤め、現在に至つているが、昭和四九年一月ないし一二月の勤労収入は四六万一、二二六円であり、相手方は××電力△△発電所に機械保守係として勤め、同会社には勤続二一年に及び、昭和四九年一月ないし一二月の勤労収入は一八五万二、五〇〇円である。

3  申立人、相手方夫婦は、昭和四九年一一月二四日から現住居の○○ニュータウンの分譲住宅(家屋二七六坪、土地五四、三坪)に移り住むに至つたが、上記土地家屋購入のため協力して収入を増やしたのに拘らず、購入資金として借入れた金員の返済に追われ、経済生活が厳しい条件の下に追いやられるに至つたことから、申立人は相手方の態度に不信を感じ、従前より申立人と不仲であつた相手方の養母に対する不満もつのり、両者への感情が憎しみとして増幅されるに至つた。

4  申立人、相手方の収入、支出は別紙のとおりと認められるが、相手方は新居移転以来家計一切を握る立場に立つて、米、副食材料、調味料等の買出しをし、冷蔵庫に保管し、夫婦生活としては同一家屋に住みながら別居同様の生活で互に口もきかずにいる。

5  両者の仲は既に冷却し切つており、数度の調停の試みにも双方が寛容の精神をもつことができず、長女もまた両親への働きかけを積極的にしようとする態度に欠け、親元を離れての生活に安住してしまつており、相手方は離婚を望んではいるが、長女の就職や婚姻等の問題が落着するまでは離婚の手続きをしないと主張し、申立人も、既に夫婦関係がほぼ破綻していることを認めながら離婚は絶対にしないと主張し、その気持は新しい土地家屋について自分の預貯金、稼働収入も相当法ぎ込んでいるので、この家からは絶対に離れないという気持に裏打ちされている。

以上の事実によれば、本件夫婦は婚姻共同生活をするには既に全く破綻してしまつた夫婦といわざるを得ないもので、蓄積した財産(現在は土地、家屋のみといえる)を財産分与により双方が分け合つて離婚に踏み切るのが唯一の解決方法といわざるを得ない状態にあるが、かかる夫婦でも原則として相互に扶助しその資産収入等に応じて婚姻費用を分担する義務を有するもので、ただ扶助を求め、生活費を請求する者の側に破綻の責任が一方的に認められるような場合には、例外的に婚姻費用を分担する義務を免かれることがあるが、本件の場合申立人のみにその責任を負わせる事実は認め難く、経済生活の逼迫から双方が互に不信感を持つに至つたことに起因するものであるから申立人の請求自体を失当とすることはできない。しかしながら、前記認定のように、相手方の収入は、同人と娘及び申立人を含めた一家の生活費、土地家屋の借入金返済にほぼ費消されつくしている状態にあり、相手方は申立人に対する不信感から同人に家計をまかせないというだけで、婚姻費用の支出は相手方自らの手で相当額なされているといえるものであり、家族共同体において誰が家計をとりしきるかは各共同体独自の内部問題として法律を離れて解決すべきことであつて、夫が収入を得て妻がこれを管理し支出に当たり家計を維持することが通常ではあろうが、夫が得た収入を自ら管理し支出も司ることが許されない訳のものでなく、そこに法律が容喙すべきいわれはないので、その余の点を判断するまでもなく、申立人の本件申立は失当といわねばならない。よつて、申立人の本件申立を却下することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 片岡正彦)

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